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横綱 武田葉月 講談社新書
タカさんの子ども時代のヒーローは「土俵の鬼」といわれた初代若乃花であったが、あれからかれこれ60年近くずっと相撲ファンであり続けているのも、やはりあの子供時代のヒーローに対する憧れの気持ちが原点にあるからだろう。
今も語り継がれる栃錦との栃若時代、あるいはその後の大鵬柏戸による柏鵬時代、あるいはさらに下ってからの玉ノ海、北の富士、輪島北の湖といったライバル横綱同士の戦いは、今思い起こしてみても胸躍る懐かしさが一杯の楽しい思い出だ。
そんな歴代横綱、初代若乃花から横綱・日馬富士にいたる歴代横綱経験者23人を取材したのが本書である。ノンフィクションライターである著者が長年かけてインタビューした内容を再構成したものだが、「横綱」という特別の地位に上り詰めた者の肉声が聞こえる中々の読みごたえだ。
負け越せば地位が落ちるが、そこから再び又起き上がり上を目指せるという大関以下の位の力士と違い、一度その地位に上り詰めたら地位が下がることはないが、負けがこめば辞めざるを得なくなる横綱という地位は、格別のものであり、その地位に上り詰めたこの23人が一様に述懐しているのは、日ノ下開山といわれるその地位を務め続けることのたとえようもない程に思い重圧についてである。
横綱在位中に亡くなってしまった玉ノ海や著者がインタビューする前に亡くなっていた人（朝潮、柏戸等）となぜか貴乃花、若乃花兄弟など何人かの横綱は欠けてはいるが、横綱として一時代を築いた各人の言葉には、この地位がとてもではないが生半可の覚悟では務まらないものであることがよく分かり実に面白い。
問題事件を起こし、廃業せざるを得なかった双羽黒や、輪島、朝青龍、あるいは曙といった角界から去った元横綱たちの、その後の述懐なども貴重な横綱論として読めて一層面白い。
（17年1月発行）