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数学的な宇宙 マックス・テグマーク 講談社
「有」と「無」とは対立的なものだろうか（有であれば無ではなく、無であれば有ではないといった―――）といった疑問に答えてくれるのは哲学だ、と考えていたから、まさに物理学という「有」の世界の論理を記述する世界が、「実在とはなにか」という論理を語るとは自己矛盾も甚だしいのではないかとも思えるが、宇宙論、そして量子論を語る中で「実在とは何か」「無とは何か」が語られ始めると、当初はなんだか幻惑されているような感覚に襲われるが、第一部「宇宙を俯瞰する」においてビッグバンに先立つインフレーションにおいてこの世界が始まり、そしていまこの宇宙は無限の広がりを持つばかりではなく未だにインフレーションの過程にあり、しかもこの宇宙以外の無数の多宇宙空間があることが語られ、第二部「ミクロの世界を拡大する」において、かの有名なる量子世界における「重ね合わせの状態」こそが、我々のいる宇宙の基礎部分であることが懇切丁寧に語られると、もはや一体存在とは何なのかという疑問すら混乱の極みに陥って分からなくなってくるが、著者による「論理の積み重ね」の説得力によってなんとなく納得ができるような気にもなってしまう。
ひょっとしたら、著者が大詐術師であり自分はそんな詐術に幻惑されているだけではなかろうか―――という不安にも駆られるが、ひょっとしたらこれこそが「存在とは何なのか」という疑問に対する答えなのでは―――とも思えるところに魅惑されてしまっている自分が心地よく感じられもする。
ここまででも十分すぎるほどの満腹感だが第三部「一歩下がってみる」において著者の持論であり本書の真の目的であるところの、第一部、第二部でかたられた極大と極小の世界の存在そのものが、物質世界（有とか無といった）ではなく「数学的構造そのものである」という主張に直面すると、もはや訳が分からない酩酊感のようなものを感じてしまう。
「この世の存在、あるいは無とはすなわち数学的構造そのものである―――」というのだから―――。いや、一筋縄では著者の理論を理解できる方がおかしいのではないか――？とすら思えるのだが―――。
「無限論」では、無限が多層構造になっていることが説かれそれにも幻惑された感覚を味わった結果いつしか受け入れたように、著者のこれらの主張はこの無限に置ける階層構造論の宇宙論版といってよい、レベルⅠからレベルⅣにいたる多層的宇宙観を語るものであってやはり幻惑感はあるが、何度か読むうちにいつしか当たり前のように納得できる時がくるのだろうか。
（16年9月発行）