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一休 水上勉 中公文庫
臨済宗の禅師として今も多くの人々の尊敬と親しみを受ける一休禅師の評伝である。
作者自身が、幼少時から禅寺で育ったという一休と似た生い立ちをもつだけに、一休という求道者への親しみと、その達した臨済禅の境地に対する尊敬は、実に強いものがあるだけに、この評伝は詳細かつ重層なものであって読破するのに軽く一週間以上を費やすもので、「小説家水上勉が描く分かり易い一休を主人公にした物語」を期待している読者にとっては、却って失望を招くかもしれない。
但し、本書は「狂雲集」などの豊富な資料や、一休に関する実に多種の研究書、あるいは研究者の一休論をこまめに紹介しながら、一休の生涯を語る―――という構成になっており、途中、全くと言ってよいほど息を抜けない迫力に満ちている。
室町時代の五山を中心とする仏教界、あるいは臨済宗の置かれた時代的背景といったものにも詳しく、又、一休自身の、出生、出家、男色、謙翁への師事と死別、自殺未遂、華叟への師事、貧困による内職、子といった部分にも大胆に触れており、さらには晩年の盲目の女性森に対する愛欲の部分などもタブーなしに描かれていて、読後には著者の一休に対する熱情に酔わされたような気分にもなれる貴重な一冊と言ってよい。
（78年3月発行）