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あとは野となれ大和撫子 宮内悠介 角川書店
中央アジアの独立を果たして間もない小国は政変で大統領は暗殺され、浮足立た議員たちは国外へ逃走、政府機構はマヒ状態に陥ってしまい、このままでは周辺諸国に侵攻されるか、あるいは無法地帯となってテロリストたちの温床になってしまう―――なんだか現実の中央アジア情勢に似たようなこの小説の設定は、荒唐無稽とは思うもののいくらかの現実味があるようにも思えるが、その混乱をおさめようと立ち上がったのが、前大統領の後宮に詰めていた若き女性達だ―――となってくると、あれあれ、余りに荒唐無稽過ぎてまるでマンガの原作のようだ―――とも思うのだ―――。
ところがこの後のストーリー展開は、意外とそれなりに筋が通っているようなところもあり、現実の中央アジア情勢に照らして考えてみるとそれほど無茶ともいえない気がしてくるし、物語の状況説明も、破たんを見せないところもあるだけに、結局最後まで読み通してしまった。
この小説、要するに、自分がもっていた「小説」という枠組みからは随分と違ったところに、成り立っているようであり、漫画的なキャラクターやらストーリー展開が、今や漫画ファンのみならず小説ファンにも受け入れられるようになっている―――ということなのだろう。
すくなくとも、作者の現代的なこういった感覚は、自分にとっては物珍しく思えるが、「くだらない！」の一言で済ませるには惜しいような気がしてきたのは、この作者が中々ユニークな才能をもっているから――ということではないかと思う。
ソ連時代に大規模灌漑によって今や失われつつあるアラル海周辺が舞台になっているということを知って手に取ってみた本書だが、アラル海周辺の環境問題やら、ソ連崩壊後のこの地域における政治の動き、イスラム国などの動きを含む各国の思惑といった中々得られない情報が、かなり豊富にストーリーの中から伺える点にも作者の取材力が生半可ではないことを感じて感心させられた。
（17年4月発行）