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平均思考は捨てなさい トッド・ローズ 早川書房
予備校などで行う模試の成績は偏差値で表されるが、全体の平均点を偏差値50としてそれより高い（51とか52といった）偏差値なら「平均より上位」、その反対ならば「平均より下位」といった数字で表されるもので、一般的に言えば偏差値50の成績なら母数全体の丁度中位にいる―――と表されるはずでこの前後の成績のものが全体の母数の中ではもっとも人数が多いはずだ。
そうであるならば、全教科合計の偏差値が50で、かつ各教科毎の偏差値が50、という成績の者が全体の中でも一番多いはずだが―――ところが5教科全ての偏差値が50、全体偏差値50という「もっともありふれた成績の学生」というのは、まずいないという。それは身長も体重も座高も「すべてが同学年の平均値」という生徒が一人も存在しない―――という統計的事実と同じなのだ。
模擬テストの場合でも、ある教科の成績は良いが｛例えば偏差値61｝、他のある学科の偏差値は43と悪く、全体順位は偏差値50だった―――という成績が普通であるように、身長も体重も丁度平均！などという生徒がいそうでだが、実はいない！という話と同じだ。
考えてみると、確かに人は皆に通ったように見えても実は一人一人が実に異なっていて個性的であり「世の中に決して同じ人間はいない」のと同じで、「全てが全体の平均」などという人間はいない――ということであり当たり前のようにも思えるのだが―――。
しかし、このような「平均思考」が実は世の中のあらゆるところに見受けられ、それが個人の能力を削ぐことにつながり、社会における経済の生産性を阻害する要因になっているというのが本書に於ける主張であり、いわれてみれば、思い当たる節は数限りなくある。
桜陰を出て、東大、ハーバードから厚労省のエリート官僚―――という「優秀」な女性議員が「このハゲ―！」という暴言で政権を揺るがす―――といった全くの失格人間である例がつい最近あったけれど、これにしても「成績優秀な女性なのだから人間的にも優秀なハズだ―――」という自民党幹部やら選挙区の人々の間違った「平均思考」が生み出した悲劇（喜劇？）ではないだろうか。
本書の主張には膝を打ちうなづくところが多いが、さて自分自身もそして世の中が、この「平均思考」の呪縛から逃れることができるのだろうか―――と現実を見た時に実はそれが途方もなく難しいことであるに思い当たり、暗澹たる気持ちにさせられる。
(17年5月発行)