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最後の資本主義 ロバート・B・ライシュ 東洋経済新報社
資本主義がその根本のところで競争原理に基づいていることを否定することはできない。競争原理に基づけば勝つ者、負ける者の間に格差が生じることはこれまた必然だ。
人が他の動物と同じように弱肉強食の競争原理に基づいて生きていた原始の時代、人は自分もしくは自分の家族の糧を得るために競争し、時には協力し合って生きていたはずで、一人が生きていく上で必要な糧は、強い者と弱い者とではそれほどの差はなかったはずだ。
しかし、農耕をはじめ、糧を保存することを始め、又、そういった糧（富）の交換を始めるようになって、強い者（富める者）と、弱い者（貧しい者）がもつ富の量の差はどんどん広がっていった。
しかし、近代にいたっても、富の差（格差）は、それほど大きなものではなかったが近年は例えばアメリカでは全米上位1％の富裕層が持つ資産は、下位90％が持つ資産よりも多い！といった事態が起きている。
これを、「資本主義である以上、それが究極の姿でありしかたのないことなのだ！」と、下位90％の人達までもが信じている―――というのが現代の「最後の資本主義」の姿だと著者ライシュは指摘し、これこそ、現代の富裕層による様々な不正義の賜物なのだという。
彼は、これからの新しい資本主義は、「政府か市場か」といった二者択一のレトリックに囚われることなくｊ、市場メカニズムの根幹となる市場のルールを富の大きな格差が出ないように見直すことで、資本主義を壊すことなく、サステナブルな資本主義を構築することにあるという。
著者は、いわゆるロボットやAIによる「合理化」によって、今後、人間の働くことの価値はますます小さくなり、稼ぐことのできるものは資本のみとなってしまうだろうという。しかし、ロボットやAIがどんなにすばらしい財・サービスを提供できても、それを買うことのできる層が消滅してしまっては全く意味がないことを考えれば、今こそ、新しいルールの下で資本主義を立て直さなければならないと言う―――。
クリントン政権で労働長官を務めたというリベラル派の著者による分析には一々うなずけるのだが―――理想論ばかりでは社会変革はできない、という現実に立ち向かうには、著者の主張ではまだまだ足りない部分があるとおもえる。
読了後も色々と考えさせられる一冊だ。
（16年12月発行）