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宇宙は「もつれ」でできている ルイーザ・ギルダー 講談社
量子物理学を否定したのでは現在人類が得ることのできる物理学の全体を理解することはできないし、現実の物理世界が一般相対性理論と量子力学とい相性が決してよいとは言えない二つの理論の上に成り立っていることを認めざるを得ないという事実に、自分だけではなく多くの物理好きがなんともいえない「居心地の悪さ」を感じているに違いない。
真空では粒子と反粒子が対生成と対消滅を繰り返している―――といわれると、それって無から有が生まれ、有から無がうまれる―――という般若心経の色即是空、空即是色のことではないか――――と思い、これが本当に物理学なのか？と全く理解不能に陥ってしまうが、確かにそう言われればそうかもしれない――例えば、自分と言う存在はもともと何もない所から生まれ、いつかは無に戻るのと同じでは―――などとも考えるのだが――――。
量子力学の中でももっとも理解できないのが「量子もつれ」である。シュレディンガーの猫、で有名なあの半分死んでいて半分生きている猫、といった到底、理解し難い事象が量子状態では維持されており、現実世界でもそれを反映した「量子コンピューター」が機能しているではないか―――といわれると、今現在の自分の物の考え方の根本を突き崩されているかのように感じてしまうのだが―――。
いままで数多くの量子論の本を読んできても、どうしてもすっきりしなかったこの「もつれ」問題を数式などを一切つかわずに解説しようとするのが本書で、アインシュタインという一人の天才によって理論化された一般相対性理論と違い、数多くの物理学者たちが協力し、啓発し合う中で生まれた量子論形成の歴史などを交えて解説する中で、わからせようとしてくれる親切さには頭が下がる。
もっとも、余りに情報が詳細過ぎて一冊を読了するのにそれなりの日数を要すること、数式を使わないとは言え、デカルト的な世界と余りに違う「異界」を、我々のような古い常識にとらわれている人間に納得させ得るだけの力技にはいささか足りないような気もする。
量子論を理解させるには、むしろ、宗教の力のようなものが必要なのかもしれない。
（16年10月発行）