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笑芸論 高田文夫 講談社
200年前、300年前の作曲家の作ったクラシック曲が今も繰り返し演奏され人々の心を揺さぶるのに比べ、長くてもせいぜい数年の寿命しかない歌謡曲や、ポピュラー音楽との差は何なのだろうかと思う。
ベートーヴェンの交響曲も作曲され人々に好まれて聞かれはじめた当時は、消耗品の一種だったに違いないのに、歌謡曲と違って、それが人々に今も好まれ、繰り返し聴かれるのには、なにか文化的に普遍の価値のようなものがあるからだろうか。
それでも、「なつかしのメロディー」といった歌謡曲番組ならば、それを懐かしがる人たちが結構いる歌謡曲やポピュラー音楽とちがって、更に「消耗品」の度合いが強いのは本書の著者が語る「笑芸」の世界だろう。
2－3年ほどまえに一斉を風靡した（？）お笑い芸人でさえ、あっさりと忘れ去られ、まして50年、60年前の「お笑い」では、例えば、エンタツ、アチャコの漫才が番組で流されることもないし、例え流されたとしても、どれほど「当時爆笑をとったのだ～」と説明されても、その可笑しさが分かる人はいないどころか「これの何処が可笑しいのか？」と首を傾げられるのが精々だ。
すなわち「笑芸」とは、まさに賞味期限が極めて短い消耗品だと考えるべきなのかもしれない。
昭和23年生まれの放送作家であり、タレントでもある著者の「笑芸論」は、タカさんとほぼ同年代の笑芸好きによる戦後の笑芸史、しかもそのすべてが実地に著者自身が、見たり聞いたりした体験記でもあるのだが、めったに「なつかしの笑芸」などという企画に出合ったことのない身にとっては、ドンピシャリとはまるなつかしの「あるある」回顧談である。
タイトルにもある通り「森繁からビートたけしまで」の戦後の笑芸人の回顧談だが、懐かしく「そういえば、こういう芸人もいたなぁ～」と思いだす芸人の数は膨大で、著者が「思いだすままに書いた」という割には、極めて詳細な列伝になっており、著者の記憶力の良さに舌をまく。
（17年3月発行）