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希望の人びと 生井久美子 朝日新聞出版
「痴呆」とか「ボケ」といわれて一度なったら治らないと家族も諦めていたような症状がその名前が「認知症」と改められて以降、随分とその認識が変わってきたことは、昔を知っている身にとっては驚くばかりである。
未だ持って、認知症が全快する、といった治療法が発見された訳ではないものの、認知症のレベルの進行を遅らせたり、止めたりする薬や治療法は確立されつつあり、いつの日か、完全治癒という夢もかなえられるかもしれない―――と思えるようになっている今日この頃ではある。
もっとも、昔の「痴呆症」時代から大きく変わったのは、本人は勿論、家族、社会の認知症への理解という部分であろう。
認知症に陥った本人はもちろん、その周りの人びとにとっても、この症状に陥ることの精神的不安は今も昔も変わらないと思うが、本人も回りも「なってしまった以上、諦めるしかない」と思っていた昔に比べて、最近はそういった不安や、社会的な困難に対してそれを取り除くシステムや、治療が考え出されはじめていることは、大きな進歩と言える。
かつては、平均寿命が短く、認知症になる前に他の病気で死んでしまう人が多かったが、今や皆が80代、90代、中には100歳以上まで生きるようになっており、その割合で今後は、認知症患者の絶対数が大幅に増えることはまず間違いないようだから、こういった精神面、社会面からの認知症治療の必要性はますます高くなるだろう。
本書は長年、この認知症問題に携わってきた記者である著者が、認知症の現場の様子をルポとして描いたもので、かつての有吉佐和子の「恍惚の人」が、今や「希望の人」といわれるようになろうとしているという、ポジティブな面を強調した一冊だ。
勿論、未だもって認知症が深刻な病気であることに変わりはないが、なってしまった以上は、それを前向きとはいわないまでも、そのポジティブな面を捉えて生きて行こうという患者たちの実に人間らしい叫びには共感できる。
自分もいつかは辿る道かもしれないと思いつつ読むと－－－やっぱり恐怖にさいなまれはするけれど―――。
（17年2月発行）