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さらば、民主主義 佐伯啓思 朝日新聞出版
「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」といったのは皮肉家ウィンストン・チャーチルだが、「民主主義ほど完全無欠な政治体制はないから、これを守らなければいけない！」という思い込みの上になりたっている現在の世界の政治背景の様々な矛盾点を説いた本書を読むと、あらためてチャーチルの言葉の的確さが分かろうというものだ。
例えば今注目の憲法改正問題一つをとっても、国会議員の総数の2/3が発議し、国民投票で過半数の賛同が得られれば憲法改正ができるという規定は、たしかに憲法が定めたルールに基づくもので「多数決」という民主主義原則に合致したものではあるが、民主主義のもう一つの側面であると「思われて」いる、「個人の自由」だとか「自由主義」という側面から見た場合、民主主義のルールはそれを抑圧するものであり、実は民主主義と個人主義だとか、自由主義はある面で相反することが分かる。
民主主義は全体主義と対立するかと言えばそうでもない。民主主義的な方法によって徴兵制が引かれた場合、国民は自分の平和主義的な思想に背いて徴兵に応じ、敵国と戦争することを強制されるかしれない。すなわち、民主主義は全体主義のツールになり得るのだ――――。
本書ではそういった民主主義の持つ矛盾点が次々と挙げられていて、どれも思い当たるものばかりなのだが－－－。かといって、民主主義に変わる政治形態が本書で提案されている訳ではないところがまさにチャーチルの言葉、「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」が名言として今も語り継がれている所以なのだ。
（17年2月発行）