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πの歴史 ベートル・ベックマン ちくま学芸文庫
本書を読み始めたのが8月の初め、途中休み休み、しかも歯が立たない計算や図式は読み飛ばしてもそれでも尚、2カ月間かけて最後の頁にたどり着けたのは、やはり内容がおもしろかったからであり、どうしても途中で放棄する気には成れなかったからだ。
高校時代、何かの折にπが無理数であることの証明というのを見て以来、こんな不思議な数が存在すること自身に何か宇宙の淵源が横たわっているような感覚に打たれたことがあるが、すべての円の円周は直径とある一定の比率にあることが発見されたのは歴史的な文献が残るところでも、今から2000年以上前であるし、おそらくそれよりはるか以前に人類は既にそれを知っていたかもしれない。
ある意味、それ以来人類は正確なその比率を得よぅと知恵を絞ってきたといえよう。西洋ではシラクサのアルキメデスをはじめ数学者として著名な人物のほとんどが、このπという不思議な数字の魔力を追い続けてきたし、それは東洋、そして和算の世界でもそうであった。
本書が書かれた今から50年近く前には既にコンピュータによるπの計算が始まっていたことが、本書の後半部分に書かれているが、調べてみたら今現在、スパコンで到達できたπの小数点以下の桁数は、なんと8000兆桁だというし、何せπは無理数であることが証明されている以上、この数字は未来永劫増え続ける訳で―――となると本当に宇宙の淵源以上の深さのある数字だと思う。
本書は、詳しい数学的な解説も（分かり易く）なされてはいるが、本当の読みどころは、人類が今日までこの無理数を求める為に努力してきた歴史が述べられている点で、数多くの数学者のロマンあふれる発想に触れられるだけでも、理数系を離れたなにか文科系的な面白さがあった。
（06年4月発行）