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なぜ、世界は右傾化するのか 池上彰 ポブラ新書
政策論争といえるほどの論争もないままに中傷合戦、批判の為の批判論争の続く今回の衆議院選挙でも、例えば中身がよくわからない『「安倍政治」を許さない』を叫ぶ側が「リベラル」と称し、それに対するまさに「安倍政治」なる何のことを言っているのか良く分からないものが保守だとか、右傾化、といわれる－－－となると、いやまさに「右傾化」「保守」あるいは「リベラル」とは何なのか？が全くわからなくなってしまい、「選挙戦」全体が議員になって「議員歳費を稼ぎたい」だけのガリガリ亡者たちの「罵り合い」にしか見えなくなってしまう－－－。
こういった状況は、なにも日本だけではなく、世界各国の政治状況はいずこも同じ、といってよいようで、各国内には様々な対立があり一方がリベラルといわれ、又一方が保守といわれる状況があるかのように言われているが、よく見てみるといずれも確たる精神的信念だとか支柱があると思えず、単なる対立の為の対立、要は自己にとって「好きか、嫌いか」あるいは「自分にとって利益になるかならないか」に基づくいがみ合いに過ぎないようにも思える。（難民や移民を受け入れるかどうか、などの論争も結局はそれぞれの自己満足に根差した感情論に過ぎないようにも見える）
いまや、引っ張りだこの評論家、池上彰とレポーター役の増田ユリアによる対談形式の本書は、タイトルにキャッチ―な「右傾化」という言葉を使っているが、ここでいう右傾化とはどうも、その受入れが、国や住民にとっての負担が、許容範囲を超えて重くなりすぎていることに対する反発のことを言っている、と限定しているようで、そういった問題を単純化して「排外主義」「右傾化」とひとくくりしてしまう安易さには、池上らしい鋭さが感じられないようにも思う。
本書でも度々触れられているがEU発足時、中心的役割を果たしたフランスのドゴールはイギリスの加盟を頑なに拒否していて、イギリスが加盟したのはドゴールが亡くなってからのことだったといった歴史を思う時、果たして今や右傾化の反対の極にあるようにいわれるEUでさえ、その内部に著者のいうところの「右傾化」の体質をもっており、それが移民、難民の無制限といってよい受入れに向かおうというメルケル的な主張との内部摩擦を起こしているように思えてしまう。
結論からいえば、今の多様な国際情勢を「右傾化」だとか「保守」といったあまりにおおざっぱな括りで語ろうとすること自身に矛盾があるのだと思う。
（17年6月発行）