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100万回生きたねこ 佐野洋子・絵と文 講談社
この絵本の事は随分以前から聞いてはいたが、NHKのテレビ番組「ヨーコさんの言葉」でこの作家のエッセイを知って興味を持ち、初版出版後30年目に初めて読んだのだが、わずか30ページ余りの絵本とは言え、発行以来200万部を売り上げたというだけのものはあると思った。
ストーリー自身はシンプルで、100万回の生まれ変わりを繰り返してきたトラねこがいて、彼が死ぬ度にその飼い主は泣き暮れるのだが、ねこ自身は自分のことは好きだが、飼い主のことを好きになったことがないから、泣くこともなかった。
そんなトラねこがある時、白いメスねこを好きになり、二匹はたくさんの子供を産んで育てる。トラねこは愛するものとの日々を送ることの幸せを感じ、この白ねこといつまでも生きていたいと思うのだが－－－。
子供達も育ち、やがて二匹も老い、ある時、メスねこは静かに息を引き取る。トラねこは、はじめて泣きそして泣き暮れて何日か後に、白ねこの傍らで息絶えるのだが―――もう二度と生き返ることはなかった―――というものだ。
これだけのストーリーだが――というよりこれだけのストーリーだけに、この絵本で作者が訴えようとしているのについて、おそらく読者はそれぞれに色々な解釈をめぐらせるのではないだろうか。
もちろん、作者の意図が分かる訳もないし、解釈もいくつあっても構わないのだが、読み終わった時に皆が感じるであろう、なんとも言えない命というものに対する愛おしさ、悲しさといったものは共通しているのではないだろうか。
そして、人にとって命と愛というものがいかに不可分であり大切なものなのか、そしてその二つともにいつかは必ず失われてしまうものなのだという寂しさが、逆に、今この時の人生がいかにかけがえのないものなのか、自分の愛する人々がいかに大切な存在であるのかを教えてくれているような気がする。
（77年10月発行）