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粘菌 中垣俊之 福音館書店
生き物とは何か？については様々な定義が語られているが、そもそも生物と無生物の違いにしてもあるところまで来るとその境界線はかなり曖昧模糊としてくるし、そうであるならば「生命」の定義とは単純に「生きている」ということにだけなってしまうような気がして、それでは「生きている」とはどういうことかといえば－－－？という堂々巡りに陥ってしまうような気もする。（何年も動かないでいる胞子や種子は生きていると言えるのか？ ウィルスも生命といえるのか？等々）
それでも、まだ「細胞」だとか「神経系」といった機能を備えているからこそ生命を維持することができているのではないか――といった理解で生命というものを捉えようとする努力から離れられない自分なのだが－－－－。
そこに「粘菌」という生物が入ってくると、今までの生命に対する理解が、根底から再び混乱させられてしまうようにも思えてくる。
我々人間には60兆個あるといわれる細胞が、粘菌には一つしかないし、単細胞であるからもちろん細胞と細胞を繋ぐ神経系もない。それでいながら粘菌は固体として自ら判断をし、時には食料を得るために迷路を見事に最短ルートで進むようなこともできる。
そうなると、同じ生命とはいえ「知的生命体」などと言って高等ぶっている我々と単細胞生物である粘菌との間には、生物と無生物の違いほどの差異が横たわっているようにみえながらも大きな差異はないようにも思えてくる－－－。
南方熊楠が魅入られたこの「粘菌」についての入門書中の更に入門書にあたるのが本書で、イラストを大きくつかった絵本風のつくりで、粘菌とはいかに不思議な生物であるかを知ることができて、あらためて「生命とは凄い！」という思いにかられる。
粘菌の様々な能力を知るにつけ、知性のないことの例えである「単細胞生物」の方が実は我々よりはるかにすごい生命力と効率的な知能をもっているように思えてきた。
（12年11月発行）