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ダ・ヴィンチの右脳と左脳を科学する レナード・シュレイン ブックマン
本書の冒頭、著者は 本書を執筆中、脳腫瘍で余命９カ月と診断され、2008年9月に緊急手術を受け回復したものの自ら大脳に障害がでる状況を体験している。
そんな体験を経た著者によるダ・ヴィンチという天才の脳がどのようになっていたのか？という探求書だけにより重みを感じる一冊だ。
7年の歳月をかけたという本書の執筆を終えた著者は、2009年5月に永眠したと「はじめに」に記されていることもあって殊更に重みを感じた書である。
史上最高の天才は誰か？となると「天才」を計る時空を超えた尺度というものがある訳でもないから議論は様々に分かれるが、誰かが言っていた「それまでの常識を180度変えてしまい、その人以降、その人の考えが常識となってしまうような業績を残した人物」という定義にはなるほど！と思ったものだ。
ニュートンや、モーツアルト、アインシュタインといった人達がまさにそういう「天才」に相応しいのかもしれないが、科学、芸術、あらゆる分野で後の時代を変えるような天才的な偉業を為したといえるという意味ではダ・ヴインチは群を抜いた天才といってよいかもしれない。
本書はそんなダ・ヴィンチの伝記的側面を深く持つと同時に、彼の右脳、左脳、そしてその両方の脳が同時連携的になした業績を脳科学研究的に捉えるという、実に緻密な作業をした労作で、330ページ余りの大著だが、最後まで飽きさせない。
特に面白かったのは、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」で用いられた遠近法の始点がキリストの額の中心ではなく、むしろゲシュタルト的な始点を用いることによって我々見る側にとってもっとも心地よい遠近法を使っている―――と指摘している点で、そうだとすれば、ダ・ヴィンチは、人間の頭脳ばかりではなく知覚さえも総合的に把握していたあたかも神の如き人物－－－ということになる訳で―――ダ・ヴィンチ研究に後半生をささげた著者の冥福を祈りたい。
（16年4月発行）