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兼好法師 小川剛生 中公新書
日本三大随筆といわれるのは「枕草子」「方丈記」そして兼好法師による「徒然草」であるが枕草子と方丈記の間が約200年、方丈記と徒然草の間が約100年の時間を隔てているとはいうもののこの300年余りの間に未だに「三大随筆」と呼ばれる作品が生まれたという事実は驚異ともいえるのではないかと思う。
そのいずれもが、その時代の雰囲気、文化を今も強く現代の我々に教えてくれるばかりではなく、ここに描かれた精神文化が今尚、我々日本人の美意識、あるいは人生観に強く影響していることにも改めて驚かされる。
本書は、その三大随筆の一つでもある「徒然草」の作者である兼好法師とは一体どのような人物であったのかについて長年研究を続けてきた著者による一般向け論文といえるもので、研究書としての詳細なものであるにもかかわらず、ミステリー的な要素を多く含む面白い一冊になっている。
まず驚かされるのは 我々がややもするとスルーしてしまいがちな「隠遁生活」という一見すると風雅にも思える生活を送る兼好自身が意外と俗っぽい人物であったという事実であろう。
必ずしも、身分が高かった訳でもない彼は「法師」という世間一般の身分制度の埒外ともいえる肩書を得ることによって自らの出自のハンディキャップの隠れ蓑にする―――といった意外と「俗っぽい」ところがあったという事実だろう。
まあ、それほどに当時の階級制度というものががんじ絡めなところがあったということなのだろうが、徒然草の内容の「枯れた」感じとは裏腹な彼の出世欲、自己顕示欲を感じると、むしろ益々その内容や兼好法師地震に親しみを覚えるではないか。
考えてみればそもそも現代においても随筆というものは、書き手のありのままの姿、考え方がそのまま書かれているという訳ではない場合が多く、そこには少なからず書き手が「そうありたい」と思う姿や、己を偽って（多少は盛って）描いた姿などがある物で、そういった著者の飾りつけを作品から読み解くのも随筆を読む喜びともいえる訳で―――清少納言が自分の教養をかなり鼻にかけるタイプだったのではないか―――といった）、そんな随筆の本質にあらためて（意地悪く―――ともいえるかも）気付かせてくれたという意味でも面白い一冊だった。
（17年11月発行）