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世界一非常識な日本国憲法 長尾一紘 扶養社新書
日本国憲法にはどう考えても一つの自由な独立国家の憲法としては辻褄の合わない非常識な条文が多すぎることは、憲法成立から70年が経った今、気付いている人が国民の過半に達していることは近年の憲法改正論議の盛り上がりを見ても分かるのだが―――。
しかしそれでも尚、この矛盾に満ちた憲法を一言一句変えてはならないという護憲論を唱える連中がいてしかもその多くがこの憲法でメシを喰ってきた「憲法学者」といわれる連中だというのはなぜだろう。
憲法学者の一人である著者が、この矛盾に果敢に挑戦したのが本書だが、戦後の護憲派憲法学者（彼等こそが戦後の憲法論議を封じてきた元凶だ）の（戦前からの）一貫性のない憲法論議のいい加減さ、詐術、変節について歯に衣着せず語る本書の論調には、胸がすく思いがする。
著者は、現行憲法の矛盾の原因は、まずその内容の非常識さだという。前文も内容がなく緊急事態に関する規定もないままに、70年をどうにかごまかし切ってきたが、これ以上はとても国際社会における一独立国としては無理だし、そもそも、GHQによる押しつけ憲法だという事実に目をつぶり、日本人が自律的に制定したのだ！というウソを信じようと必死な様も、もうこれ以上は続けられない、という主張もまったくその通りだ！といわざるを得ない。
しかし、この2点については、「それは過去のこと」として直せばよいことだが、一番問題なのは今現在の問題として、憲法学者、そして訳のわからない「護憲＝平和」という教義を信じ込ませようとするいわゆる護憲派、宗教的サヨク主義者たちによる頑迷なる改憲反対論にこそ大きな現代的問題があるという。
著者の批判は中でも戦後に於ける憲法学を主導してきた宮沢俊義の戦前における明治憲法擁護からの180度転換による『反天皇』『反自衛隊』『反国家』てき憲法擁護論への変節を厳しく批判、さらにはその宮沢憲法学に付和雷同して、その時々の権力情況に迎合して憲法解釈をコロコロと変えてきたいわゆる「護憲派憲法学者」に対する批判は、痛快でもある。
もっとも、この70年不磨の大典の如く、議論することさえ許されなかった憲法が、いかに著者をはじめとする改憲論者の主張がまっとうであったとしても、ちょっとやそっとでは動きそうもないという何とも言えない掻痒感を拭い去ることはできないが―――。
（17年9月発行）