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イスラームの歴史 カレン・アームストロング 中公新書
元カトリック修道女であるイスラーム研究者による一冊という意味でも、ある特定の宗教に偏ることなく、イスラームという宗教の本質に迫るものだともいえるのではないだろうか。
決して長いとは言えないが、中東に2年住み、仕事上長く中東と拘わってきた経験からすると、タカさんにとっては、今、世界の多くがもっているイスラーム教＝過激で訳のわからない宗教、というイメージはイスラーム教の本質とは180度ことなったものだという気がしてならない。
イスラーム教は、元々砂漠と言う過酷な自然環境に住む人々が持つ、自然に対する怖れ、あるいは過酷な自然環境下であるからこそ人々が助け合わなければ生きては行けないといった社会の厳しさ、といったものに根差した生活規範から生まれた宗教であり、それ故にイスラーム教は、唯一神アッラーに服従すること、そして人々は、お互いに公正、平等、思いやりを持って行動しなくてはならないということを基本に置いた絶対的に平和主義的な宗教であるという点を著者は強調する。
この宗教は、元々商人を中心とする実利的で現実的なアラブ人の中から生まれた宗教であり、そういった考え方がその地域で伝統的であったカアバ崇拝など伝統を尊重しさらには、同地域に住むユダヤ民族の宗教や、当時ひろがりつつあったキリスト教などの伝統や風習、考え方と融合する形で形成されたものだという。
当然、本書では教祖ムハンマドが、女性蔑視の習俗のあったアラブ地区において、女性の解放に熱心であったことにも言及、クルアーンは神の前での男女の対等、同等の義務と責任を認めていることなど、今、世界の多くがもっているイスラーム教への誤解といってもよい偏見の解消に努めている。
そんなイスラームがなぜ今、西洋が主導した近代化の過程で苦悩に喘いでいるのか、その歴史的、文化的背景、あるいはスンニ派とシーア派のイスラーム法学的な違い、といった点についても述べられており、イスラームを特定の宗教に偏らず知るには手ごろな一冊になっている。
(17年9月発行)