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昆虫――驚異の微小脳 水波誠 中公新書
地上にいる生物種の中でもヒトこそが最も優れている、それはヒトの脳が他の種に比べてもっともすぐれているからだ―――と信じられているが―――。
しかし、例えば物を見る能力が脳の働きによってなされているというが、ヒトの動体視力は一秒間に15－20の場面を見分けることができるに過ぎないが昆虫のハエは一秒間に200の場面を見分けることができるという。ハエの極めて小さな脳（微小脳）は、我々が、もっとも優れていると思っているヒトの脳より10倍近く優れているのだから、ヒトがハエを叩きつぶそうと振り上げている手はハエにとってはスローモーションのような鈍い動きに見えるのだろう。
そもそも、昆虫はヒトが持たない「空中を飛ぶ」という能力をもう何億年も前から身に付けている―――というように生物の持つ固有の能力はいずれが優れているとか、劣っている、といった比較などできないものではあるが、本書では昆虫の、しかもその「微小な脳」のすばらしさについて実に細かく書かれており、日頃我々が意識することもない「一寸の虫」のしかもその「微小脳」の驚異を教えてくれる一冊だ。
最近、ドローン技術が発達してヒトが上空からの視野を得ることが簡単にできるようになっているが、地上という平面を歩いていてさえ物にぶつかることがあるのに、昆虫はその視野で常に物を立体的に捉えしかもぶつからないでいる―――というのは、考えてみると驚異的であるが―――昆虫の単眼といわれる第三の目の役割なども詳しく解説されており、昆虫という生物が実は、驚くほど驚異に満ちた生物であることを改めて思わされた。
（06年8月発行）