ガリレオの迷宮 高橋憲一 共立出版
「自然という書物は数学の言葉で書かれている」というガリレオの言葉は、今も多くの科学者たちにとって神の言葉の如く響いている。
この言葉を絶対的に正しいと信じてしまえば、未だに解明されていない多くの謎は、それは単に我々が神の言葉を発見していないから、あるいは理解できていないからに過ぎないという事になってしまうわけで、これって、ある意味、科学を探求する上では弊害になる言葉ではないか―――すなわち我々には絶対に「神の言葉は理解し得ない」といっているのと同じだ！「宗教こそが真実だ！」と行っているのと同じではないか？ともおもわないではない。
しかし、本書を読むと、そういう意味ではガリレオの「自然という書物は数学の言葉で書かれている」という言葉の真の意味は、必ずしも「科学的な真実は必ずや人類が最終的に知り得るものだ」という意味ではなく、もう少し深く多層的な意味合いがあることばであることが見えてくるように思わなくはないのだが――――。
今から約400年前に書かれたガリレオのさまざまな書稿を丹念に拾い集め、整理していくという作業は実に根気のいる迷路の中をさ迷い歩くような作業だが、著者はそんな作業の中から、ガリレオが到達し得た境地、すなわち「自然という書物は数学の言葉で書かれている」という言葉に辿り着くまでの道筋を理解しようとしている。
さらには、著者の探求はガリレオ以降、今も続く科学の探求が、（今もなお）迷い込んでいる迷宮についての考察へと続いており、ガリレオ研究という出発点から発して、深い迷宮の中にある「科学とは何か」という謎への、尽きない探求の入口の書になっているようにさえ思えてきた。
（06年5月発行）