カンブリア紀の怪物たち サイモン・C・モリス 講談社
古生代に突如現れたように見える生物の爆発的多細胞化については、それ等の古生代生物とそれ以前の生物、あるいはそれ以降の生物との関連性については、昔から様々な説が唱えられている。
すなわち、カンブリア紀の生物とそれ以前、あるいはそれ以降の生物とはほぼ断絶している―――とする説から、地球生命の連綿とした連環の一つの局面であるとするものまで、なにせ3億年以上前の生命史を語る上では、確たる証拠にも恵まれない時代だけに中々ミステリアスな議論であり、地球生命史に興味のある素人にとっては、何ともロマンに溢れる分野といってよい。
本書は、カンブリア紀の生命化石の宝庫ともいえるバージェス頁岩の紹介といった面はすっとばして、これらの化石が生命進化のどの過程にあるのか、ないのか、といった今も尽きない論争に、敢えて挑んだ一冊であり、古生物好きにはたまらない一冊と言ってよいだろう。
本書は、古生物学の第一人者であり東大の教授でもある著者による書下ろしだそうだが、その要点は、グールドの唱えたカンブリア大爆発についての著書「ワンダフルライフ」対する全面的な反論の形になっている。
すなわち、著者はこのバージェス頁岩中に観られる余りにも奇妙奇天烈な生き物たちも、斬新的な生命進化の一過程に過ぎないというドーキンス説にたっており、パージェス頁岩化石は、偶然の産物の一つであり現存の生物とのつながりは薄いとするグールド説に対する反論、反証が列挙されているが、グールド説に対するドーキンスの反論とはまた一味違った、理論になっており、いまから20年近く前の、グールドvsドーキンス論争を思い出して実になつかしく興味深く読んだ。
生命進化はあくまでも偶然の積み重ねなのか、それとも試行錯誤を繰り返してはいても、結局は一定方向に収斂していく必然なのか―――尽きない論争を思い出して、再び、この方面の本を改めて読み直してみたくなってきた。
(97年3月発行)