138億年宇宙の旅 クリストフ・ガルファール 早川書房
地球から太陽まで光速では8分18秒かかる計算になる。しかし、この距離をロケットで飛ぶとなるとあの月までいったアポロに乗ってもおよそ1200日（3年2カ月）かかるという計算になる。
まあ、太陽に突っ込むのは有人では無理であるから（焼け死んでしまう）有人飛行は無理だが、火星ならどうにかなりそうだ。
実際NASAは地球からもっとも近い惑星である火星には、有人飛行を計画しているといわれるが、最短でさえ片道2年を要するというから2030年代には―――とはいうもののこの計画にそんなに意味があるとは思えない――――。
要するに宇宙は余りに広大で、今の科学技術では人類が太陽系外の宇宙空間に飛び出す－－－などということはとうてい無理だということになってしまうのだ。（ちなみに1光年をアポロに乗って旅すると約6万年かかる計算になる）
ところが人間は想像によって光速を容易に越したスピード（アインシュタインによれば光速を超えるスピードというのはあり得ない）で、この宇宙の果てまであっという間に旅することができるばかりではなく、その宇宙の果ての先がどうなっているかですら思い描くことができる。
しかも、その想像が、荒唐無稽な空想ではなく、一応、人類が今までに到達しえた科学的知見に基づくものだとしたら－－－。
極大の世界（宇宙スケールの世界）のみならずプランクスケール、いやそれより極小の世界にすら、我々は想像（科学的な言い方をすれば思考実験）によって行くことができるのだ。
そう、我々は想像によって、現実には絶対の到達し得ないような世界にまで自由自在に旅することができるのだ。
本書は、そんな思考実験によって、人類が実際に行くことのできない世界に我々を連れていってくれるという、大人にとっての絵本のような一冊だ。
出てくる数式はたった一つ、例のアインシュタインのe＝ｍｃ2だけである。
しかも著者のこの本を書くにあたっての決意のほどが「本書では、読者を誰ひとり振り落さない」と書かれているように、光速とは何か、量子とは何か、時空とは、物質とは何かといったとっつき難い問題から始まって場とは、ブラックホールとはあるいは多次元宇宙とは、弦理論とはという宇宙科学の現在までに到達しえた地平までを、分かり易く説いてくれる。
宇宙論の総まとめともいえる内容なのに、優しい解説書になっており、宇宙好きには待望の一冊ということができる。
（17年11月発行）