西郷隆盛のことば 加来耕三 河出書房新社
今年の大河ドラマ「西郷どん」に便乗してというか因んで、西郷隆盛という人物に関する本が大量に出版されている。
そんな一冊ではあるものの西郷という人物が形成される過程を簡潔にまとめ、更に西郷の人物スケールの大きさについても、その人格形成の過程と照合する形で解説してあり新書一冊によく纏まっている。
西郷は明治維新の原動力ともいえる人物でありながら、西南戦争で賊軍の将となったがその後、彼を敬愛する人々によって明治の元勲といわれる人々の中でも抜群の人気を誇るにいたったのは、写真嫌いであった所為もあって、生前の写真が一枚もないという幻のカリスマ的存在でありつづける理由があるようにも思うが、それを含めて彼の行動原理は未だに謎に包まれている面が多い。
従って、多くの「西郷物」はその謎解きに多くの紙幅を割いてもいるがいずれも中々、説得力に欠ける部分はあるが、本書は西郷自身のことばからその謎ときに迫ったものだけに、かなり説得力があるように思う。
戊辰戦争で西郷の指揮する官軍に敗れた米沢藩では、敗軍でもあるにもかかわらず西郷を敬愛する人が多いのは、勝者の将である西郷が、米沢藩に対しておごった姿勢を一切見せず、礼をもって接し寛大な処置を行ったために、米沢藩は藩主以下、ことごとくこの西郷の処置に感服したためだといわれている。
その、結集が敵軍であった米沢藩がまとめた西郷のことばを集めた「南洲翁遺訓」である。
一時は敵軍であった米沢藩によってまとめられた書である「南洲翁遺訓」だけに、西郷という人物がどのようなスケールの人間であったのかが浮かびあがる内容のある一冊となっている。
（17年11月発行）