第三のチンパンジー ジャレド・ダイアモンド 草思社
我々人類がチンパンジーの系統から分化したのが700万年前、更にホモサピエンスに分化したのが精々10万年前に過ぎないという。長い生命の歴史からみたらそれはほんの一瞬に過ぎない。
我々の種はチンパンジーの近親であり同じくチンパンジーと同種のボノモを加えて考えるならば、我々は第三のチンパンジーと言える種なのだ。
その証拠に、われわれホモサピエンスのDNAはチンパンジーのそれと比べ、98.4％が同じ、すなわちそのDNAの違いはわずか1.6％に過ぎないのだが－－－。
しかし、高度な文明をもち今や宇宙にすら飛躍しようとする我々人類とチンパンジーの差は余りに大きい。
1.8％の違いの内、一体何が人類とチンパンジーをここまで隔ててしまったのだろうか―――著者はそれを人類が獲得した豊富な言語を操る能力だという。
チンパンジーにも数百の単語を理解する能力はあるが、声帯上の限界から複雑な言語を音声的に表現できないし、そのことが集団の中で広くコミュニケーションを図ることを妨げているし、また人間のように社会を作り、世代を超えて文化を蓄積し継承することを妨げている。
このたった1.8％の違いのなかの、言語という能力こそ人類とチンパンジーそして地球上の他の生物との違いをうんでいるのだという。
その他の生物と異なった能力が、農業技術、植物改良という技術を生み、さらには動物の家畜化という品種改良を可能にし、今や地球上に75億人もの個体数を抱える種にまで発展した訳だが－－－。
一方では、人類のみの特質といってもよい大量虐殺という他の動物種にはない残虐さを生み、動植物の乱獲によって多くの種を絶滅に追いやり、自然環境の破壊により自分達自身の将来をも破壊しようとさえしている―――。
一体、人類が人類たるに至った英知は、我々人類にどんな未来を提供しようとしているのだろうか―――。
（15年12月発行）