イスラム教の論理 飯山陽 新潮社
イスラムといえばもともと日本人には馴染のない宗教だし、最近ならば多く人が持つのは「無差別テロ」を行う狂信的な宗教もしくは得体のしれない集団といった負のイメージが多いのではないだろうか。
イスラムを知ろうと思ってイスラム研究者の本などを読むとその多くは、イスラムは寛容の宗教、平和の宗教であって、イスラム国のテロリストや、その支持者たちはそういうイスラムの中でもほんの一部の異端であり、現代西洋社会との宥和こそがイスラムの本義である－－－といった弁護的な物がほとんどだが、イスラムの新進学者である著者は、そのいずれもが正しく、同時に間違っているという。
なぜなら、イスラム教は教祖モハメッドの時代から強い一神教であり、しかもイスラム以外の宗教は（カソリックなどを含む他の一神教も）すべて本来はあってはいけない宗教でありそれらの異教徒を滅ぼす（殺す）ことは、神の意思に従ったことになり彼等（テロリスト達）は天国に行ける！と説いている宗教だからというのだ。
勿論、イスラムは実際に「寛容の宗教」であり「平和の宗教」でもあるのだが、それは「イスラム教徒」という神の御心に従っている者同士に対するもので、異教徒にテロを行う者たち（同じイスラム教徒）に対する非難にはなり得ないというのだ。
確かにテロリスト達をイスラムの宗教的権威が「異端者」と非難するのを聞いたことがない－－－なぜなら彼等のテロ行為は、イスラムの絶対的不滅の経典であるコーランに書かれている神の言葉を実行しているのだから彼等を非難するということは、神を非難することになってしまうからだ。
「思想信仰の自由」「民主主義」「世界平和」といった価値観を近代西欧社会において万人は共通認識としてもっているということを前提に全てを考えている我々にとっては、このようなイスラム的価値観は、到底理解することができないからこそ、西欧のあるいはイスラム研究者たちは、この価値観の絶対的な違いを、何とか解消しようと、無理やりにイスラム過激派を「異端」しかも「極一部」であるというイスラムの教義とは違ったものだとして却ってイスラムと違った解釈を加えようとしているのだが、それでは永遠に彼等過激派（イスラムの教義に基づけばむしろ「正統派」）の論理を理解できないままに終わる－－－というのが著者の解釈である。
なるほど、そうであるならば、あのイスラム過激派の私たち日本人にとって不可解な行動を理解することはできるのだが－－－。
この結論が導くところは、イスラムの考え方、行動に我々がどう対処すべきか、という問題に解決策を与えてくれることにならず、西欧社会は彼等と永遠にどちらかが絶滅するまで殺しあわねばならない－－－ということしか解決策はない――ということになってしまうのだが－－－。
（18年2月発行）