たとえ明日世界が滅びようとも 藤原新也 東京書籍
「たとえ明日世界が滅びようとも私は今日リンゴの木を植える」は宗教改革家マルティン・ルターの言葉としてよく知られる名言だが、その意味するところは、例え自分の今の努力の成果を、自分が得られないとしても、自分は今やるべきことをやり続けるだろう、という宗教改革者らしい強い意思を表したものだといわれ、まさにプロテスタンティズムの精神を良く表しており、マックス・ウェイバーの「プロテスタンティズムと資本主義の精神」を一言で要約しているともいえ、そのことばの意味する人生観に賛同している訳ではないが、プロテスタントの考え方を良く表しており好きな言葉である。
そんな訳で単純にタイトルに興味を持ったという理由で手に取った一冊だったが、その内容はいささかというかかなりタイトルと無縁なエッセイ集という感じで、名前負けの感はいなめないが、このタイトルでなければ私的エッセイ集としては、そこそこの出来ではないかと思う。
知り合いが団地で孤独死し、死体見分や遺品整理にあたった体験をまとめた冒頭の一遍は、衝撃的だが人それぞれの人生観、死生観についての言及があったかと思えば、
東北大震災における死に関する現地ルポ的な一文があるなど、メメント・モリ（死を想え）についての著者の感想など、それなりにエッセーテーマとしては統一をとろうとした形跡は見えるものの、どちらかというと多様な機会に書き溜めた私的エッセイの羅列のようにも感じられ、やはりタイトル負けの感はぬぐえなかった。
（13年9月発行）