おらおらでひとりいくも 若竹千佐子 河出書房新社
幸せで平凡な主婦だった著者だが、長年連れ添った最愛の夫に突然先立たれてから数カ月、悲しみの中にも、ふと気づくと子供たちも独立して自分はもう何の束縛もなく自由であるという内からの思いがこみ上げてきた。
その思いを63歳になってから初めて書いた小説が芥川賞を受賞したのだという。
著者のそういった心の声を74歳の主人公、桃子さんに託して書いた本作は、芥川賞始まって以来の高齢での受賞作とはとても思えない質を秘めた作品になっているが、著者の今までの実生活、実感に基づく作品であり、その人生経験の重みが感じられる所為も多分にあるからだろう。
桃子さんは、東京オリンピックの年に東北から上京し夫と知り合い結婚し、子を育て、平凡で幸せに暮らし夫も看取った74歳の主婦だ。
その老境で見つけた自由の思い、老境に達した女性の覚悟のほどが、宮沢賢治の詩の一節「ひとりで死んでいく」という意味の東北弁「おらおらでひとりいくも」がこの小説のタイトルに込められている。
「人生の冬」を堂々と受け入れていく主人公の明るさとそしてその覚悟のほどが、同じく老境にある多くの男女を勇気づけてくれるのではないだろうか。
どうも、余り共感しない受賞作が多くなっているように思っていた芥川賞だが、この作品の素人っぽいように見えながらの重厚さには感動を覚えた。
（17年11月発行）