人間の未来AIの未来 羽生善治・山中伸弥 講談社
人間が機械を使う－－－ではなく機械が人間を使う未来がくるようになるのではないかという恐怖は、かのラッダイト運動が始まった時期から語られはじめ、チャップリンの「モダンタイムス」などでも繰り返し「恐怖の未来」として語られることの多かったテーマだが、今や、機械と人間はどちらかといえば、当初語られた恐怖ほどには敵対しておらず、人間はそれを使いこなしてまあ、適度な共存関係を築いているとさえいえるかもしれないが－－－機械に変わって近未来の人間にとっての恐怖として語られるのは人工知能（AI）と人間の関係だ。
当初は便利なツールとして人間が使いこなせるのだと軽く考えられていたAIだが、その人間の能力をはるかに凌駕する計算能力や、力まかせの分析能力の凄さは、人間の能力をはるかに超えている分野も多く、すべての能力に置いてAIが人間を上回る時代、すなわちシンギュラリティがもう間もなく実現する－－－といわれるようになって、ラッダイトの時期同様に、人間にとっての未来にはなにか暗雲が漂うように語られることが多くなってきている。
そんな中、羽生善治と山中伸弥という今AIが導く近未来を語らせたら面白いと思われる二大知性が対談形式でAIと自らの研究分野とのかかわりかた、そしてそこから見える人間との未来像を語るという本書は、非常におもしろかった。
IPS細胞という原初細胞を作り出すという思考作業の過程は、気の遠くなるような遺伝子の組み合わせのなかから力仕事のような荒業で成し遂げられたのではなく、まさに人間の知能による行ってみれば「カン」に基づくような発想から成し遂げられたものであるという山中の語る事実、又、何万といわれる次の手の中から、これは、という妙手を選び取る作業が、人間の知能に蓄積された経験からくるいわゆる「第六感」的な「ひらめき」によるものであるという羽生の語る事実、などの話を読んでいると、やはり全ての面においてAIが人間を支配下に置くというシンギュラリティ―は来ないし、一部の分野でそれが実現したとしても（例えば、AIによる自動運転が全面的に普及するといった）、それを使いこなすのはあくまでも人間であり、人間がAIに支配される－－－などという時代は、永遠に来ないのではないか――とも思う。
色々、考えさせてくれる面白い一冊である。
(18年2月発行)