ゲノム編集からはじまる新世界 小林雅一 朝日新聞出版
遺伝子組み換え技術に対する抵抗感の強い日本人だが、最近よく聞くクリスパーなどのゲノム編集技術と一体どう違うのか？といった第一歩からかなり丁寧に解説してくれる本書はこれからの我々の生活に否が応でも深く関係してくる遺伝子技術についての現状、今後の問題点などを知る上で有益な入門書といえる。
考えてみれば、遺伝子組み換え技術については必要以上に恐怖心をあおるような事例が頻発しそれが故に遺伝子組み換え植物に対する拒否反応が日本で強くなってしまったことは、果たしてこれからますます爆発的に増加するかもしれない世界人口のことを考えた場合、大きな損失というべきかもしれない。
その点、ゲノム編集技術は、遺伝子組み換え（GMO）の辿った道を参考にして慎重に進められていることが語られ、何となく安心感を持つけれども、この著者の公平なところは、そうはいっても生命の仕組みは、決して一つの遺伝子で全てが決まる、といったものではなく、実に多くの遺伝子の影響が複合的に関連しあっていること、又、遺伝子のみで全てが決まるものではないことが、ゲノム編集技術が進むに従って分かってきていることを述べており、遠い未来でさえ生命の仕組みを人が思いのままに操ることは、ひょっとしたら難しいかもしれない－－－というなんとない安心感を与えてくれる言葉も添えられている。
遺伝子操作を語る時、必ず問題になるのがモラルの問題だ。
医療に役立つからと古くは入れ歯や、メガネ、輸血などがもてはやされいるにもかかわらず、そこでは、古風なモラルたとえば「身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるや」など吹き飛んでしまっているが、それでは「永遠の命を得るための脳移植」「クローン人間の作製」となると、モラル的なコンセンサスを得られないではないだろうかという問題に直面せざるを得なくなってくるのではないだろうか。
本書でもその辺りのモラルの問題については軽く提起されてはいるが、深く踏み込んではいないが－－－生命科学は現状未だそこまでは到底踏み込めないレベルにあるということなのだろうと思うが―――。
（18年3月発行）