ヒト、この奇妙な動物 ジャン＝フランソワ・ドルティエ 新曜社
「なんのために生きるのか」「存在とは何か」「死に対する怖れ」etc、人以外の動物は考えているのだろうか。
例えば、犬や猫が死んでいく時、彼等はただそれを静かに受け入れているように見え、到底、そんなに達観した死に方は人にはできないなぁ〜と思う時、果たして人間が動物の中で一番優れている――と言えるのだろうかと思う。
いや、只、生まれて、生きて、そして死んで行くだけだと思えば、それを淡々と受け入れている、我々が人類が、自分達よりも劣ると考えている動物よりも、人は一番ダメな生き物でしかないのではないかとさえ思う。
人だけが持っている（と思われる）こういった「思考する」という能力は、人が道具を使うようになり、言語を操るようになったことで生まれたとする説が有力だが、その能力のお陰で、今や人類は宇宙に飛び立とうとしているし、76億にまで増え、尚増殖しようとしているし、シンギュラリティ―などといわれる人間の能力をはるかに超えたAIまで手にいれ、「神の領域」にまで入ろうとしているとしているのに、犬や猫がどれもいとも簡単にやってのけている「恬淡とした死に方」一つできないというのだから―――。まさにヒトという生物は「奇妙な動物」というしかない。
本書はその人の奇妙さが、一体、どのように形作られてきたのかを、生物学的に、あるいは人類史的に考察したもので、言語の発生や芸術の発生などに遡及し、あるいはそれらがどう他の霊長類と違っているのかにまで言及していて面白い一冊になっている。
考察は、生物学、人類学といった分野に限らず、時には言語学、脳科学、芸術哲学といった多岐の分野にわたっており実に興味深いが－－－それゆえに却ってヒトという動物の奇妙さが、益々、浮き立ってくるように思える。
（18年5月発行）