AI原論 西垣通 講談社選書
我々はAIになにを求めているのだろうか。
まず、その点をはっきりさせずにAI論を語っても意味のない空論になってしまうのではないだろうか。
AIブームともいわれる状況は、今回が3度目だというが、1950－60年代の第一次ブーム、1980年代の第二次ブームでは、ただひたすらにAIのデータ処理能力を向上させるという方向で動いた結果 例えば高速での計算能力は円周率なら22兆桁まで計算できるようになったが「それがなんだ！」ということになってしまい、結局、そこを追いかけても思ったようにAI万能社会（AIさえあればなんでもできる）はこないだろうという諦めに似たものに到ったように思う。
それなのに、今回は前二回のブームで到達できなかった力任せの部分までも機械自身にやらせるといういわゆる機械学習（ディープラーニング）を使えば、それこそ前回2度のブームでできなかったことができるようになる－－－という夢を再び追いかけ始めている。
しかし、やはり「我々はAIになにを求めていくのか」についてのコンセンサスがない限り挫折に終わるような気がしないではない。
目標を空の彼方に置いていれば、一生懸命走ればいつかはそこに到達できる－－－と考えるのは馬鹿げているのと同じではないかと思う。
若い女性の移ろいやすい恋心が、AIによって時々刻々100％分かるようになる――等ということは、どんなにディープラーニングが発達しても無理だし、そもそもいかに進んだロボットを作っても生身の女性のように、男性が恋心を抱くことはないだろうし、AIの医療技術で人が死ななくなったからといって人類はその永遠の命で本当に幸せになれるだろうか、働かなくて良い社会が来たからといって（しかも死ねない）幸せなのだろうか―――
（18年4月発行）