炭鉱と日本の奇跡 中澤英雄・嶋崎尚子 青弓社
電力供給に限ってみても現在（2018年）に石炭火力発電が占める割合は全国の総発電量の33％を占めている。（もてはやされる自然エネルギーだが、供給の不安定さや、コストの高さから未だに6％を占めるに過ぎない）
今は発電用の石炭のほとんどが海外からの輸入炭ではあるけれど、昭和の日本のエネルギー需要を支えたのは日本各地にあった国内炭鉱であったし、戦後直ぐの頃、優秀な学生の一番人気の就職先といえば鉱山会社であった。
その後の石油、そしてLNG、そして原子力などへのいわゆる「エネルギー転換」と安い輸入炭へのシフトなどにより国内石炭産業は一気に斜陽産業への道を歩んだわけだが、福島の原子力発電の事故などによって最近は石炭への依存は若干ながら増えているという。
二酸化炭素排出の一番の元凶ともいわれた石炭だが、今や原子力への多分に感情的な忌避感からか、石炭などの化石燃料へのバッシングの声はなりを潜めているのは皮肉だ。
本書は戦後日本の高度経済成長という奇跡の原動力となった石炭産業の「危険な重労働」や労使紛争などの負の部分や、ボタ山や炭住などにまつわるノスタルジックな面など、石炭産業が日本の労働・経営のあり方、技術革新、地域社会への貢献など、与えた影響を詳しく分析した一冊だ。
振り返るだけでなく、今も尚しっかりと生き残っている日本の石炭産業の現状、そして将来像についても描いており、炭鉱を懐かしいと思う世代にとってはなんだかホッとする一冊でもある。
今や、蒸気機関車が若い世代にまで大人気であるのと同じなのかもしれない。
（18年7月発行）