すごい物理学講義 カルロ・ロヴｴｯリ 河出書房新社
ミクロ世界の成り立ちを表す理論である量子力学の先鞭をつけた一人であるアインシュタインは、量子力学の余りにも奇妙な論理がどうしても納得できず、彼自身が発見したマクロ世界の成り立ちの法則である一般相対性理論との統一を後半生をかけて研究したが、結局成しえないで一生を終えた。
「神はサイコロを振らない」という彼の信念に基づく言葉が意味するように、あくまでも「確率」によってしか語れないという量子論の奇妙さが、彼にとってはどうしても納得できなかったという事は、我々にもなんとなく理解できるのは、我々が意識の中で、自分の「存在」を実感しているのに、「あなた自身の存在は、幻覚にすぎないし、その幻覚というものも実際は存在していないのだ―――」といわれているのと同じだからだ。
プラトンやアリストテレスの時代から、あるいは原始仏教の時代から、人は「存在」とは何かを問い続けてきた。そして、未だもって明確な答えにいたってはいない。
本書では人類のその「存在」への探求を歴史的に辿りつつ、現在の到達点、そしてその究極の解決方法の可能性までを比較的分かり易く説こうとした労作であり、その意味で確かに「スゴイ」と言えるかもしれない。
本書では、その究極の理論としてはあの有名な「ひも理論」さえも飛び越えて「ループ量子重力理論」が挙げられ解説されている。
「ループ量子重力理論」では、いままでの数多くの理論では、どちらかというとあいまいなまま扱われていた「時間」について、時間というものは存在しないが、あくまでも「現在」しか知覚できないわれわれが「思い込んでいる」ものなのだ―――というなにやら宗教的（仏教的）な考え方を基本とした理論だ。
ここまで来ると、結局、それは最終理論と言えるのかどうかは、我々人類には絶対に判断できないのではないか―――とも思えてくるし―――。
いずれにせよ久々に知的好奇心を掻き立てられる一冊であり、「すごい物理学講義」というタイトルに納得がいった。
（17年5月発行）