名もなき王国 倉数茂 ポプラ社
読み進めるにしたがって最初のうちは、この物語の輻輳した構造に戸惑いを覚えるが読んでいくに従って作者の仕組んだトリックがなぜか心地よくさえ感じられるようになってきて、最後に近づくにつれてページを捲るのがもどかしくさえ感じられた一冊だった。
この物語を紡ぐのは三人。主人公は「私」として登場し、一応作家を名乗っている。もう一人も同じく売れない作家の沢渡瞬、そして三人目が瞬の伯母で既に世を去った幻想小説家だった沢渡昌だ。
3人ともに「物語」の世界にとりつかれているという設定で、その三人の作品（掌編）が全体にちりばめられていて、又、三人のそれぞれの人生も織り込まれていく。
3人の作品がそれぞれ観念小説であったりSFであったりまたそれぞれが幻想的なのでどこまでが挿入された作品なのか、どこまでが登場人物たちの物語なのか、時には混乱するが、それぞれの物語が最後には見事に辻褄があってくる――という魔法のような見事さは―――なんとも心地よい。
読後に2度も3度もかみしめたくなる後を引く一冊だ。
（18年8月発行）