ジョゼフ・フーシェ シュテファン・ツワイク 岩波文庫
フランス革命そのものが本当にこんなことがあったのか？と驚くほどの大ドラマであるが、その登場人物たちが次々と登場しては消えて行く中で、最後まで舞台に存在し、決して主人公ではないもののその場面、場面において、重要な役割をになっている人物といえば、このフーシェをおいて他にないだろう。
王政の打倒から共和制へ、そしてナポレオンの帝政へ、さらには王政復古へと、大きく体制が揺れ動く中で、常に主要な場に立ち続けるためには、数限りない裏切りを重ね、それでいて厚顔無恥に振る舞う以外ないが、それを見事にやってのけたのが、名著の呼び声高い本書でツワイクが取り上げたフーシェである。
革命の初期、ロベスピエール等とともにルイ16世やマリーアントワネットを断頭台に送り、ナポレオンの時代には后のジョゼフィーヌ、秘書のブーリエンヌまで買収してナポレオンのプライベートな情報を握って、激動を泳ぎ切り、王政復古になるや今度は生粋の王党派に切り替える―――その憎々しいまでの変わり身の見事さを、ツワイクは活劇的に見事に描いている。
フィクションならば大傑作のピカレスク小説だが、この物語がノンフィクションであるというところに更にこの作品の偉大さを思わされる。
（79年3月発行）