世界史を大きく動かした植物 稲垣栄洋 PHP
人類は高々500万年前に出現したのに比べ植物は既に何億年も前から地球上で繁栄をつづけている。人間を始めあらゆる動物が自ら栄養を作れないのに比べ植物は光合成によって自ら栄養を作っている。
この二つの事実をもってしても植物は人類などよりもはるかに‘えらい’ということは理解できていたつもりだが人類が植物を利用してきたという主客の順で考えていたけれども、進化生物学者の著者の視点からみれば、植物こそが人類に歴史を作らせ、文化を作らせてきたのだという。
本書を読んでみてなるほどそうかもしれないと著者の主張に納得、目から鱗の気分である。
メソポタミアで始まった小麦を栽培することから始まった農耕は、それまでの狩猟採集生活という比較的労働時間の少ない生活から、人類を過酷な労働という文化へと転換させた。
保存がきき、蓄えることができる小麦という作物が、富という概念を生み、富の偏在ということから権力社会という構造を生み、一旦走りはじめたそういったシステムから人類は後戻りできなくなった反面、他の動物にはない様々な文化を生み出していった―――という歴史をはじめ、例えば肉の保存に欠かせないコショウを求めて人々が大航海時代を築いていった例など、14の植物についてそれらの植物が我々人類の歴史をどのように作らせてきたかが述べられており実に面白い。
畑作によってできる麦と、アジアに多い湿地を生育地とする米作によって西洋とアジアの文化がどのように違った形で形作られてきたかなどの指摘も、改めて知らされると人類史の大きな流れは植物によって人類が動かされてきた結果であることが、まざまざと感じられる――。
（18年7月発行）