大人は泣かないと思っていた 寺地はるな 集英社
短編7話からなる連作短編集というべき一冊だが、九州の田舎町での出来事として一話一話がうっすらとした関連をもっているので、通常の短編集に比べて何だか随分と親近感が持てる話になっている。
第一話の主人公である32才独身の時田翼が、7話通しての影の主人公的役割をはたしている。
翼は32才、九州男児の典型をもって任じる父は妻（翼の母）にも去られ、退職以降は昼間から大酒を飲んで周りからも疎んじられているが、翼は酒も飲まず菓子作りが趣味という農協に努める独身男だ。
ある日、隣家の老婆が翼の家のゆずを夜な夜な盗んでいるから現場を押さえてつかまえろと父に命じられ、小学校時代からの親友の手を借りてそのゆず泥棒をつかまえるのだが―――犯人は隣家の老婆ではなく意外な人物であった―――という第一話からはじまって、第二話では第一話に登場した人物が主人公になってという形で次々にストーリーが展開する。
ダメ人間は多く登場するが、それぞれにダメなのはその人間が弱いからであって決して悪い人間だからではない、という我々自身、あるいは回りにいる人々との共通点が見え、その人々の物語が語られる―――というところに、共感を覚えて、物語にのめり込めるように思う。
主婦作家らしいが、女流独特の着眼点もあり今後の作品にも期待したい。
（18年7月発行）