小数と対数の発見 山本義隆 日本評論社
東大紛争時、東大全共闘議長として闘争を主導した著者は当時、東大理学部物理学科の大学院博士課程に在学中だった。
紛争で逮捕され大学院を中退し、その後は予備校の講師を務めながら、地道な科学史研究を続け、多くの著作をものにしているが、本書もそんな中の一冊だ。
タイトルに惹かれて読み始めた一冊だが、小数と対数とはそもそも何なのかという解説書ではなく、著者の科学史研究家としての小数と対数という概念がどのようにして生まれたのかを、実に地道な研究の成果として述べたものであって、本書を通読することによって今や我々が当然の如く常識として知っている「小数と対数」というものが、実に偉大なる人類の遺産であるということにあらためて気付かされる。
元々少数の概念は今から500年程前までは無く、小数の概念はそれまでに使われていた60進法が起源であること、すなわち10進法の概念を人類が常識として持つにいたった歴史は、たかだか500年程度でしかないということにまず驚かされた。
また、ネイピアが指数という概念を全く知らなかったにも関わらず対数という概念を定義したという全く奇跡としかいいようのない事実、ネイピアの正弦関数の概念があってこそ、オイラーがあの摩訶不思議な公式、オイラーの公式を導いた事などが述べられ、オイラーの公式に感じていた摩訶不思議さも、幾分ではあるが人類の知力の合理的帰結の到達点であることが分かった。
読了するだけでも1ヵ月近くを要したし、ほんの一部しか理解できてはいないが、まさに科学史の真髄に触れたという満足感は得られたように思う。
（18年7月発行）