文系と理系はなぜ分かれたか 隠岐さや香 星海社
数学や物理学がかつては「自然哲学」の一分野であったということは知ってはいたが、それではなぜ今は数学や物理学は理系、そして哲学は文系に色分けされているのか、あるいは、マルクス経済学も数学の集大成であるかのように思える近代経済学や金融工学がなぜ一緒くたに「文系」にカテゴライズされているのかの経緯は不思議でならなかったが、本書で随分とその謎が解けたように思う。
西洋ではルネッサンスまでは、世界で起こりうる事象は全て神が考え出したものだと信じられており、例えば、星空の運行の謎を知ろうという試みは、神がどのような仕組みを作ろうと考えたのかを知ろうとする行いだと思われていた。
しかし、徐々に多くの事象について研究していく中で必ずしも「神が考えた仕組み」と考えなくても足りるような事例が次々と発見されるに至って徐々に学問の場から「神の存在」を排除できるという考え方が生まれてきた。
文系においてもそれまでは例えば「王権」というものは、神が授けたものだという考え方が主流だったが、それが徐々に人と人の関係、あるいは集団同士の駆け引きによって生まれるものだという考え方が主流となり、ここでも「神の排除」が起きてきたという。すなわち、西洋での「神の排除」が広がったことで、学問、研究、といったものを「人間」主体のものに取り戻すプロセスが「文系と理系」といった仕分けを生む原動力となったというのが著者の主張だ。
いささかキャッチ―なタイトルに惹かれて手にした一冊だが、著者の実に真摯な学問的アプローチに感心したし、読みごたえのある一冊だった。
（18年8月発行）