一億円のさようなら 白石一文 徳間書店
エンターテイメント小説としては間違いなく傑作だといってよいだろう。
まじめにこの小説にリアルさを求め、そのストーリーの多少の荒唐無稽さをあげつらってみてもこの小説の面白さをいささかも損なうことにはならないから無駄だと思えるほど面白い。
主人公は50代半ばの平凡なサラリーマン、妻とは20年以上連れ添い、子供2人はそれぞれ巣立って妻と2人だけの生活を送っているのだが、ある日、ひょんなことから妻は40数億円の遺産を隠しもっていることを知る。しかも、その遺産は彼女が結婚前から持っているものだということを知る。
前の会社をリストラされた時も、子供たちの進学でお金がいる場合にも彼女がその遺産を使おうとしたことは一度もなかった。
子供を育て共に苦労をしていた時にも彼女はその遺産のことを自分には秘密にしていたのだ――。
主人公は、ふと自身の人生を振り返っていた時、たとえば、なぜ、娘と息子に起きたトラブルの時も妻は自分には知らせていなかったのか、一体自分とは妻にとってどうゆう存在だったのか、そしてそんな妻と過ごしてきた自分の人生とは一体何だったのかを思い悩みはじめる。
夫が自分の秘密を知ったことで、妻は主人公に１億円を手渡すのだが―――彼はその１億円をあたかも妻からの手切れ金のようにも感じて、会社も辞め、家を出る。
そこから、ストーリーは更に展開していくのだが――彼は新天地に移りそこで新たな人脈を築き―――とこの小説はまだまだ新たな展開をみせ、それが又面白い。
そして―――約一年後、彼のことをそれでも慕い続ける妻がとった行動とは―――。
久々に夜更かしをしてしまった。
（18年7月発行）