ベスト短編ミステリー 連城三紀彦他 宝島社
『このミステリーが面白い』の選者がこの100年に及ぶ日本ミステリー史の中から選んだ十篇の短編ミステリーを二分冊としてまとめたものの中の1冊だが、オールタイムベストに選ばれた連城三紀彦の「戻り川心中」を始めおなじく連城三紀彦の「桔梗の宿」それに高木昭光の「妖婦の宿」、江戸川乱歩の「押絵と旅する男」、泡坂妻夫の「DL２号機事件」の5編が納められている。
人気作品を集めたという趣旨からか、それぞれの作家、作品に統一性がないけれど、それはそれで「日本ミステリー史」という目でみれば、日本のミステリーもこれだけバラエティーが豊富なのだ―――と考えることも出来る。
やはり、他に大きく水をあけてオールタイムベストに選ばれたという連城三紀彦の「戻り川心中」がいい。
才能に恵まれた作家、詩人というのは数多くいるだろうが、その作品が世に残るためには、何か劇的な作品の背景、もっとも好ましいのは作家自身の悲劇的な死が必要である―――太宰が幾度も心中事件を起こし最後には入水自殺したのも、川端や三島が自死でその生涯を終えたことも彼等がそんな目的もあったのではないか―――もし、彼等が長寿を全うし、最後は認知症になっていた―――というのと「自死した」というのでは、その残した作品の評価は大分違ったものになったのではないだろうか－－－。
そんな暗喩を感じるこの作品は、才能に恵まれすぎていながらその作品に常に作為のようなものが感じられたという主人公の歌人が、心中事件を起こすというプロットにこの読書日記でも書いたように才能は抜群なものをもっているが故に、なにか「作り過ぎ」感をもってしまう連城三紀彦という作家自身のイメージが少しダブルような気がした。
(06年1月発行)