嘘ばっかり ジェフリー・アーチャー 新潮社
「百万ドルを取り返せ」や「ケインとアベル」「目指せダウニング街10番地」「誇りと復讐」などのアーチャーの長編に一時期はまっていたことがあった。
英国の国会議員であり、詐欺罪で刑務所暮らしをしたこともあるという何ともユニークな経歴の持ち主ということもあるからかもしれないが、発想が豊かでストーリー展開が面白く一度読み始めたら止められないといった作家だが、彼の短編はそれらのアーチャーの長所が更に凝縮されていて長編以上にお勧めだ。
以前彼の短編集「十四の嘘と真実」の一篇に、大銀行の前をねぐらとするホームレスが、その銀行の玄関番を羨み、その玄関番はその上司を羨み、という具合にはじまって、その銀行の各自が、皆自分より一つ上のランクの人間を羨ましいと思い―――とおもうのだが―――その銀行の会長が、辞表を書いて銀行を去るときに、銀行の玄関にいるホームレスを羨ましいとおもう－－－というオチとなる「隣の芝生は・・・」を読んだ時、なんだか落語にでもありそうな小洒落ストーリーに「粋」な小話を思ったが本書でも、どのストーリーも洗練された粋さを感じた。
小さな町で起きた町長殺害事件を捜査するエリート刑事の前には、次から次へと51人もの町民が自分こそ犯人であると犯行を自白におとずれる―――明らかに犯人ではないと分かるような自白には、誰もが、殺された悪辣だった町長を殺した犯人をかばおうとしている意図が見えるのだという「だれが町長を殺したか?」を始め本書に納められた短編いずれもあっと驚くようなストーリー展開、意外過ぎる結末などいずれも実に「粋さ」に溢れている。
（01年4月発行）