絶滅できない動物たち M・R・オコナー ダイヤモンド社
本書の内容はタイトルの「絶滅できない動物たち」よりもサブタイトルの「自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ」が良く表している。
動物園や水族館に行って人々は、自然に触れたような気分になることがあるが、狭い檻の中に閉じ込められシマウマやヌーを追いかけるといった生きる為の捕食活動をすることもなく、調理された鶏肉や馬肉を与えられ、後は寝て過ごすライオンを見て「自然」に触れたような気になっても良い物かとは思う。
本書で最初に紹介されているのが、キハンシヒキガエルというカエルだが、このカエルはタンザニアのダム建設現場で発見された種で、このカエルは常時、湿気に晒された熱帯雨林の滝といった特殊な環境でしか生きられないために、ダム建設による環境の変化の下では生存できない。
そこで今、キハンシヒキガエルは、完全に人工によってコントロールされた実験室で生きながらえているのだが―――これをもってこの種を絶滅していない、といえるのかどうかという問題が提起されている。
更には、このダムによって漸くタンザニアの人々に電力供給という恩恵を得ているという事実と、このカエルの為に、莫大な金をかけて、元の自然環境（人工で作られた）紛いの野生に戻してやり実験室の環境に慣れ切ってしまったこの種を、再び（人工的に再整備された自然環境）に戻してやるべきなのか―――あるいは、このまま実験室内という特殊環境を与え続けることが自然保護をしていると胸を張って言うべきなのか――という問題が提起されている。
更には、DNAの情報さえ保存されておれば、たとえその種が絶滅しても再びその種を再現させることが可能になる技術さえ確立しておればそれはもはや絶滅とは言えないということすらありうるわけで、（映画、「ジュラシックパーク」が現実となる可能性だってある）そうなると何をもって「絶滅」といえるのかの定義も怪しくなってくる。
かつてアメリカに50億羽いたといわれるリョコウバトはわずか100年の間に乱獲によって絶滅してしまったが、いまそのDNAからの再生が図られており種の再生が成功しつつあるが、ただ繁殖では難問を抱えている。
ひょっとしたらリョコウバトという種は50億羽という数がいることが繁殖の必須条件であった可能性も考えられ、そうなるとリョコウバトの再生の為には50億とまでは言わないが莫大な個体数のDNAによる復元が必要になるかもしれないという。はたしてそんなことをすることが「自然保護」といえるのだろうか―――。
軽々しく、「自然保護」だの「自然との共生」を唱えるが、口でいうほど簡単ではないことが本書を読むとよくわかる。
今唱えられるそれらの美辞麗句の欺瞞を突くことばとして思いだされるのは、「自然保護、自然保護と叫ぶなら、あなた達、私達、人類の滅亡こそがもっとも近道である」というアイロニーである。
（18年9月発行）