民主主義の死に方 S・レビツキー/Ⅾ・ジブラッド 新潮社
全ての戦争は「平和の為に――」と言って起こされた―――随分皮肉な言い方だが歴史的にもこの言葉がほぼ100％正しいことは、思い当たる戦争（太平洋戦争、ベトナム戦争、イランイラク戦争etc）で考えてみればうなずける。
民主主義の対義語は一般的にいえば全体主義、あるいは独裁だが、歴史的にみて多くの独裁が「民主主義的」な手続きを経て成就していることはナチスが最も民主的な体制といわれたワイマール体制の下に生まれたことや、現在のベネズエラにおけるマドロウ政権の独裁が民主主義的な選挙の結果であるという事実を見てもどうも正しそうだ。
すなわち著者は民主主義を殺すのは民主主義であって決してクーデターなどの力によるものではないという。
そんな民主主義が死に、そして独裁になっていく手順を著者は第一段階として「司法を抱き込む」次に「メディアを黙らせる」そして「憲法を変え合法的な独裁化をはかる」だという。
偶々なのかもしれないが、現在アメリカで進行しているプロセスが著者のいうところの民主主義が死んで行くプロセスに符号しているような気がしないではないし、著者も恐らくそう言いたいのだろう。
それでは民主主義をその死から救う方法はあるのだろうか？
著者はその第一は「組織的自制心」であるという。ルール上は一応、合法であっても、明らかに民主主義の寛容の精神に反するような行為は行わないようにすることこそ、今、人々に求められていることだと説く。すなわち、民主主義体制においては、皆が,[丁寧な言動やフェアプレー]に重きを置き、汚い手段や強硬な戦術を控えなければいけないという。
翻っていえば、民主主義とは、人々が人としての規範を守ること、寛容の精神を持ち続けるという―――実にもろい基盤の上でどうにか守られるものなのだと著者はいう。（逆に言えば民主主義とは、独裁的な傾向の人物が、意図を持って民主主義を崩そうと思えば簡単にできてしまうという
）
何だか、民主主義の寿命もいよいよ尽きかけてきているのかなぁ〜とも思えるような昨今の世界情勢である。
（18年9月発行）