世界史のなかの文化大革命 馬場公彦 平凡社
毛沢東によって主導された文化大革命の嵐が吹き荒れたのは1966年から10年間の間、すなわちほんの50年程前のことであり、あの狂乱が巻き起こした人類史上最大級の厄災を直接経験した中国人、そしてその騒ぎに少なからず影響を受けた中国以外の国々の人々もその多くが存命で、あの騒乱を語り論評していてもいいはずだが、中国本土では今も政権の座にある共産党の指示により、文革を公式に語ることも論評することも禁じられているし、文革の熱に浮かされて当時「造反有理」の掛け声の下、踊った人々や反体制運動に携わった人々もその大半が、そんな自分達の過去を恥じ入るばかりに、「なかったこと」として忘れさろうとしている。
この時代を経験していないと思われる世代の著者も、文化大革命になぜか共感をもって研究生活に入ったようだが、やはり、この熱病から徐々に冷めしまい、その無意味さ、有害さが身に染みたようで、あくまでも自分の文化大革命研究は、研究者としての第三者的な立場からのものだというスタンスを取ながらも、今なお文革支持の日本共産党山口県委員会左派（といっても一人か二人）をあたかも「文革精神は死んではいない！」とばかりに取り上げて褒めたたえるなど―――文革を「間違いだった」と言い切れない中途半端さが本書の価値を下げているように思う。
ただ、中国共産党がインドネシアの共産化支援の目的から後ろ盾となっておこしたインドネシア「9・30事件」の失敗とその後の中国本土に於ける文革の始まりや、当時世界的に起きた学生達を中心とする反体制運動との関連で捉え、ある意味、文革の精神が一時期とはいえ世界史を動かしたこと、あるいはその影響が現代社会における政治的な無政府状況の淵源となっているのではないか、という指摘などは目新しく中々面白いと思った。
（18年9月発行）