日本の「伝統」という幻想 藤井青銅 柏書房
軽いエッセー風の読み物ではあるが、その主張していることの意味は中々深く、現代の日本社会風刺といった意味合いを持つ。
「日本の伝統」といわれると頭からそういうものだと受け止めてしまうが、実は多くの「伝統」が最近作られたものであるし、仕掛けられた「伝統マジック」に引っかかってしまっている物も多いという指摘は、目から鱗のようなところもある。
日本で一番伝統ある町として知られているのは京都だが、そうであると我々は勝手に京都の人達は日本の伝統を守った暮らしをしているのだろうと考えがちだが、朝食にパンとコーヒーといういわゆる洋食スタイルを摂っている比率が一番高いのは京都府だというし、舞妓さんの息抜きは抹茶ではなくコーヒーか紅茶だときくとなんだか不思議に思うが、考えてみれば今時の若い娘さんでお三時に抹茶を飲む人の方がめずらしいのだから、舞妓さんがコーヒーを飲んでもおかしくはないのだが―――「日本の伝統」というマジック故に起きてしまう誤解だろう。（京風ラーメンと聞くとなんだか古式ゆかしいラーメンのように思ってしまうのも同じだ）
老舗といわれる店が決してそんなに長い歴史をもっているとは限らない例も多い。その内老舗を名乗る店の中に「創業平成xx年」等という店も出てくるだろうし、そういう老舗に違和感を持たない世代も、もうすぐ出てくるのではないだろうか。
そうそう東京で神社といえば明治神宮だが、この古式ゆかしい「伝統」の神社の建立は大正9年（1920年）であり、まだ100年経っていないのだ。
（18年12月発行）