極夜行 角幡唯介 文芸春秋
24時間太陽が顔を出さない季節というのが極地にある極夜のことだ。
ロンドンにいた時に冬至の頃に昼がわずかに7時間位しかないというのを経験したことがあるが、未だ一度も極夜は経験したことがない。
探検家として実に面白い自らの探検行の著作をものにしている角幡唯介の今回の探検は、グリーンランド北西部にある地球最北の村、シオラパルクに拠点を置き、極夜の中、グリーンランドとカナダの国境付近を四ヶ月かけて探検しようというものだ。
月が出ている時期には月明かり（以外と明るい）を頼りにすることができるが、月が顔を出さない時期、雪原は真の闇に包まれる。
こんな所に犬ぞりを引かせるイヌだけを連れて探検行をしようというのだから、この人の探検のモチベーションはいかなるところから生まれているのだろうかと、とても理解し難いものがあるが、それだけにこの余りにも自分の日常とかけ離れた場所での過酷な探検行には、迫真に迫るものを感じて頁を捲る手がとまらない。
冒頭、産院で妻の出産に立ち会った時の描写が出てくる。暗い産道を抜け出てこの世に出てきた我が子の体験を、再体験したかのように、極夜が明けた初日の太陽を見た時の著者の喜びと感動が描かれている部分は、読んでいても思わず感動の涙がこぼれるようだった。
角幡氏の探検記に又一つ傑作が加わった。この稀代の探検家、そして著作家にはそろそろ探検をリタイアし命を大切にして欲しいと、次作を期待する気持ちと裏腹ながら本当に思う。
（18年2月発行）