古代史疑 松本清張 中央公論
エジプトや中国の歴史に比べるべくもなく記録に残された日本の歴史は長いとは言えない。
というのも、記録として残るのは、魏志倭人伝に書かれた邪馬台国、そして女王卑弥呼の存在であるが、精々紀元3世紀の出来事であり、しかもその書物はいわゆる外国の物である。
日本人が文字を使い始めたのが5世紀頃というのだから当然のことだが何とも残念なことではあるが、それ故に日本の古代史は極めて乏しい資料や遺跡に基づいて類推するしかなく「謎」だらけにならざるを得ない。
中でも古代史最大の謎といわれるのが、その邪馬台国がどこにあったのかという問題だ。古くからこの問題は、繰り返し研究されてきて未だもって解明されてはいないが、それ故にこそ、一般人でさえロマンを駆り立てられる最大の謎であり続けている。
この邪馬台国論争を庶民レベルの「謎」にまで仕立て上げたのが、松本清張のこの著作である。
この「古代史疑」は1966年から1967年にかけての清張が雑誌に連載したものだが、人気推理小説作家であった彼が、挑んだ「古代史の謎解き」という点が人気を呼び、これがきっかけで歴史研究の道に進んだという人も多いという。
畿内にあったのか、北九州にあったのかで未だに決着がつかないこの邪馬台国論争だが、清張は北九州説の立場に立って議論を展開している。
清張の説は基本的には様々な学者の説に基づいて説を進める形になっており、一次資料の解釈の仕方などに関しては様々な学説を紹介する形であるために、必ずしも決定的なものとは言えないように、敢えて後に議論の余地を残しているようにも思えるのだが、素人である読者にいっぱしの古代史家のような知識を与えるという意味において、さすがに流行作家らしい手法だなぁ〜とおもわせるものがある。
（17年2月発行）