東京プリズン 赤坂真理 河出書房新社
戦争責任とは一体何だろうか。それを問われるのは個人なのだろうか、あるいは集団として問われるべきなのだろうか。集団として問われるのだとしたらその戦争が行われた時に子供だった、あるいはその時には生まれていなかった子孫たちも問われるべきなのか。子孫たちにも問われるべきだとしたらそれは戦争が終わってから100年後迄なのかあるいは1000年後までなのか――――。
今も日本人が、あるいは日本という国が問われるのは第二次大戦の戦争責任だが、日露戦争や日清戦争の、あるいは戊辰戦争や応仁の乱の戦争責任が語られることはないのはなぜだろうか。
敗戦国として第二次大戦に於ける日本のあるいは日本人の戦争責任は問われつづけているが、東京大空襲や広島、長崎に於ける無差別民間人虐殺で戦勝国アメリカの一般市民がその責任をどう感じているのか、あるいはいないのか。
こういった数々の疑問を突きつけられると我々多くは戸惑ってしまうのは、そういった疑問を戦後に生きた我々自身が封印してきたからではないの――――というのがこの小説が語りかけるテーマである。
作家自身をモデルにしたと思われる主人公は、現在40代後半、勿論戦後生まれである。彼女は10代の時、突然アメリカの東岸の高校に留学させられその地で天皇の戦争責任についてのディベートに参加させられ、その中でそれまでに意識したこともなかった日本の戦争責任とそこで果たした天皇の役割について考えさせられる。
440頁を超える大部の中で、現在46歳、日本で暮らす主人公と16歳でメイン州の高校生としてディベートの準備に悩む主人公、そして彼女の母の三人が輻輳しあい、あたかも討議し合い、時には傷つき合いつつも、戦争責任とは、天皇とは―――という思考を深めていく。
彼女が考えざるを得なかったこれらの問題は、現代を生きる我々全員も突きつけられている問題なのだ、という著者の主張には、頷かされるところが多い。
天皇陛下万歳と叫んで死んで行った靖国の英霊を悼む気持ちと同時に沸き起こる、本当にこれら英霊たちは天皇を現人神だと信じていたのですか？と問いたい気持ちに我々日本人が戦後どう付き合い、納得しようとしてきたのか、といった問題などこの作品であらためて著者が取り上げた問題は、たしかに我々日本人がこれからも封印しつづけていくであろう問題だと思う。
（12年7月発行）