まく子 西加奈子 福音館書店
小学5年生の「ぼく」（慧）を主人公にした幻想的な趣を持つ小説だが、慧の設定が、精通が始まり体は大人の入口に入りかけているのに心は大人になることへの不安から不安定になっているというまさに「ピーターパン症候群」状態にある男の子というのだから女性作家の作としては中々チャレンジングだ。
小さな温泉街に住む彼のクラスにコズエという美少女の転入生が入ってくる。彼女はとても変わっていて天真爛漫、異星人のようだが、なんでも「撒く」ことが大好きだ――――。田舎の小学校への風変わりな転校生という辺りの設定はどこか「風の又三郎」のオマージュのようでもある。
慧の家はこの温泉町で旅館を経営しており、彼の父は時々、浮気問題を起こしたりして母をいら立たせている。そんな小さな温泉街に、恒例の祭の日が近づいている――。
そんな街の日常、成長期にある少年の戸惑い、コズエとその母といわれる人との何となく不思議な関係、それらの物を混ぜあわせながら、何か幻想的な世界へと読者を導く作者の力量は中々のものである。
大きなストーリー展開がある訳ではないのだが、何故か不思議な厚みを感じさせる作品だ。
（16年2月発行）